水俣への研修、水俣病の学習について、 お問い合わせください。

1泊2日現地研修実施案

09:45 鹿児島空港着
10:00 マイクロバスにてお迎え 
11:30 昼食・・市内食堂・レストラン等
13:00  JNC(チッソ)水俣製造所見学
14:30 水俣市立水俣病資料館 見学
15:00 語り部講話
16:30 親水護岸・水俣病慰霊碑 見学
17:30  百間排水口遺構 見学
16:30 宿泊所到着・・・市内ホテル等
19:00 関係者との懇親会
   
  2日目
08:30  宿泊先出発
08:45  八幡残渣プール見学
09:10  チッソ サイクレーター見学
09:40  患者多発地域 訪問
11:30 水俣病歴史考証館 見学
12:30 昼食 わっぱ飯弁当
  相思社 活動報告
14:00 まとめ・意見交換
15:00 水俣出発 お別れ

先生からの質問への回答

教職員を対象とした水俣病啓発事業に係る研修会 質問・課題調べ

一般社団法人水俣病を語り継ぐ会・吉永利夫

■自分自身と、自分の生活と重ねること、身近に感じること

水俣に関する学習を進めるなかで、差別や偏見の不合理、おかしさに気付くことはできるが、日常生活に結びついていないという課題がある。

 

①どのようにして日常生活につないでいくべきか。

食べ物やゴミの処理、今の便利な暮らしと昔の暮らし方、何が変わって、どんな課題が出てきたのかを考えてみることも良いと思います。自分たちが生活で使っている便利なものの原料が、チッソ() の製品や技術だったりすることの現実を学ぶことも有効ではないでしょうか? JNC() のホームページ(https://www.jnc-corp.co.jp)には、児童生徒の暮らしに繋がる製品が多々紹介されています。また「悪意」ではなく、何気ない軽い気持ちで言った普段の会話が、語り部などの被害者や水俣市民にどう伝わっていくかを話し合い、機会があれば直接聞いてみることもいかがでしょうか。

 

②自分のこととして考えさせるには、どうすべきか。

自分を追い込んできたものを、考える。そのことと、語り部の苦労と乗り越えてきたものを考え、繋がりを探すことも有効ではないでしょうか。また、語り部が苦労していた時、その場に自分が居たら、どうするのかを考えてみるための「役割演技」の手法で、チッソ() の社長、被害者、医師、水俣市民等々を設定してみることも良いかもしれません。

また、現在は「コロナ禍」によって、子供たち自身が「うつる」「病気になる」「差別される」「怖い」「噂が気になる」等々の状況にあるのではないかと推察します。こうした中で水俣病によって「差別や偏見」「うつる恐怖」「噂に怯える」等を経験した被害者や市民のことが、人ごとではなくなるのではないでしょうか?

 

③自分の暮らしや行動に、どうつなげていくか。

④自分自身の暮らしや生き方と重ねて考えるような授業にするための展開方法は。

語り部の講話等の中から、生徒自身が家族や友人等、自分を支え、理解してくれる仲間を意識することに繋げることや、なぜ語り部の人たちが前向きなのか。何がきっかけだったのかを考えてみることも良いかもしれません。また啓発事業に取り組む中で先生たちからは「水俣におじさん、おばさんが居る関係づくり」を提案されています。講師を学校に招くことや、現地でのガイドを依頼する中から、水俣病のことだけではなく「一緒に魚を料理し、食べる」「水俣湾で生物調べを、一緒にする」等の、プログラムも子供たちの暮らしに重なるのではないかと思います。

⑤日常の学習や言葉遣いに関連させる手段は。

 私にはあまり知見がありません。

 

■指導にあたって

①学習を進めていくなかで、教師から児童生徒に最も伝えなければいけない点は何か。

 「教師なら、自分で見つけ出せ!」と、言っていた友人も居ました。それはそれで良いとして、私は「犠牲になった人。苦労を重ねた人。」の経験や「立ち上がってきたこと」を、無駄にしないことかと思っています。もちろん患者家族だけではありません。普通の水俣市民の苦労も同様です。生身の人々が訴え、逃げ続け様としたことを、単なる「知識」だけではなくまさに自分ごととして受け止め、次の社会に活かすことかと思います。

 

②水俣病を教材で終わらせないために、現在に至るまでの取組と現在継続して行われている取組を知りたい。

 水俣病の取り組みの多くは「被害の補償」「それに見合う被害者の特定」として続けられて来ました。それが自主交渉や民事訴訟かと思いますし、それを支える人々の存在です。しかしそれは被害者だけではなくチッソ() や行政にとっても、本来は入り口のはずです。残念ながら「補償と特定」にこだわりすぎて、入り口のまま60年、70年が過ぎてしまった感があります。とはいえ現在継続して行われている取組は、被害補償要求の民事訴訟、高齢患者に対するサポート、水俣病資料の収集保存、小中学校、高校、教職員及び保護者向け啓発事業等々と多種多様です。ここでは主として「水俣病を伝える」「水俣病を学ぶ」活動をお伝えします。

 水俣病を伝える活動・・・・前述の啓発事業は熊本県の委託事業として実施されており、例年4月頃に、各学校から実施希望を募っています。水俣市立水俣病資料館では、患者家族による「語り部講話」を実施していますが、今年度はコロナ禍により対面講話は中止しています。展示の見学やDVDの貸し出しも実施しています。

修学旅行や研修旅行等、主として県外の高校生、大学生、社会人等に対する現地ガイドやワークショップ等には「一般社団法人環不知火プランニング(https://www.kanpla.jp)」や「一般財団法人水俣病センター相思社(http://www.soshisha.org)」が取り組んでいます。水俣病センター相思社には「水俣病歴史考証館」という小さな展示館も併設されています。

 当方の「一般社団法人水俣病を語り継ぐ会(https://kataritugu.jimdofree.com)」では、朗読により水俣病を伝える活動も行っています。この他には「水俣病被害者の会」「ほたるの家」等が同様の活動を行っており、水俣・芦北の先生方が運営する「水俣・芦北公害研究サークル」も同様の活動を続けています。いずれにしてもホームページ等を一度ご覧ください。

 

 

③「みなまたの木」の本に魚を食さない鳥が落ちてきた、木が枯れたという表現があった。魚を食べる以外に広まった原因が他にあるのか知りたい。

 ご指摘の部分は、「からす、かもめ・・・私のえだで よくあそんでいた すずめも みなくなった。」「私も 立っているのが つらくなってきた。」との箇所かと思います。初めてじっくり「絵本」を見てみました。水俣病研究の第一人者だった原田正純さんの「監修」とあるのですが、誤解する部分も多くあまり良い絵本とは言えません。改定復刻版1刷には「一部、水俣病患者・支援者の指摘を受けて加筆訂正し、復刻しました。」とありますが、大気汚染と水質汚濁の概念がごちゃ混ぜになっています。確かに「飛んでいた鳥が、落ちてきた」とのお話を聞いたことはありますが、絵本で表現されている様な「鳥が大量に空から落ちてきた」こともありません。「木が枯れる」ことも、有機水銀が原因だった様な表現がありましたが、そんなことは起きていません。子供たちに水俣病を伝える「絵本」としては、お勧めできません。

 

④動画を見ること以外に、学習の方法があれば知りたい。

 「動画」とは、水俣病資料館が貸し出している「語り部講話の動画」と推測します。水俣病の「被害」を学び、そこからどう立ち上がったのかを学ぶために準備されているものです。「動画」意外には写真集があります。施設からの貸し出しは難しいのですが、一般の書店で販売されているものや、インターネットで中古本を探すことも可能です。一般社団法人水俣病を語り継ぐ会では、朗読を通して水俣病を伝える活動も進めています。早めの要請によっては学校への訪問も可能です。また「水俣の箱」には、水俣湾の仕切り網や写真集も入っています。なお、水俣病患者家族だけではなく、様々な経験をした水俣市民や水俣病関係者も多く、要請によっては学校に招くことも可能です。

 

⑤教職員として水俣病問題を啓発していくうえで、一番大切にしていくことは何か知りたい。

 水俣病をめぐって起きた様々な事柄や経験を、一人一人の児童生徒の暮らし方や悩みを解決するヒントや拠り所に繋げていくことかと思っています。言い換えれば「児童生徒の自分ごとにすること」かと思います。水俣病は今現在発病している人が居るわけではありません。しかし過去の施策や対応の誤りによって、現在も被害に対する補償や救済を求めざるをえない人が存在し、水俣病患者家族というだけで疎まれ、水俣市民だからというだけで、偏見を持って対応されてしまう地域だということです。こうした事象を、クラスや家庭や個人で起きている悩みや事件と結びつけ、解決のためのヒントに活用していただきたいと願っています。単に歴史として水俣病を学ぶのではなく、熊本県民としての誇りや常識としてはもちろん、課題を明らかにした上で解決のために学んでほしいと思います。言うのは簡単ですが、それぞれの地域や年齢、経験等によって様々な取り組み方があると思います。

 

⑥現地学習ができない中、直接、語り部の方等の話を聞くことができる機会等があるか知りたい。

 コロナ禍で難しくなっていますが、少人数ならソーシャルディスタンスを守り、マスクの着用を徹底するなどして、水俣市等の公的施設を会場に実施は可能です。要請方法は⑦に準じます。

 

⑦語り部の方を学校に招いて話を伺ったり、あしきた青少年の家等で講話をいただいたりすることができるか知りたい。

 一般的に「語り部」とは、水俣市では水俣病資料館から要請されて、ご自分の経験をお話される患者家族のことを言います。この他にも水俣病を伝えている患者家族や、市民も多々おられます。どんな学習を進めるかによって、選ばれたら良いと思います。紹介してくれる団体、機関にご相談してください。設定している学習テーマやご希望の方が居られれば、とりあえずお伝えしたほうが良いと思います。基本的には5000円から20000円程度の謝金をお渡しするのが、慣例になっています。ちなみに、水俣市立水俣病資料館では、資料館以外での語り部の講話はお世話していません。

 

⑧動画視聴において、語り部の方の願いや思いを十分に受け止めさせるには、どのような工夫があるか知りたい。

 まずは、事前学習でその人がどの様な苦労をされ、どの様な思いで居られるのかを、知っておくことではないでしょうか?「妙に予備知識があると、かえって話しにくい」と、言われていた語り部もおられましたが、基本的な知識がありその上に語りを聞くことで、深まるのではないでしょうか?また難しい言語も語られますので、事前、事後に解説しておくことも必要かと思います。

 

⑨水俣の子供たちが、ふるさと水俣を誇りに思い、地域の良さを子供たちが感じるために、どのような取組がなされているか知りたい。

  水俣の先生に聞いてみようと思ったのですが、間に合いませんでした。

 

⑩水俣学習を進めるうえで、効果的な資料があれば教えていただきたい。

    何を教えるかにもよりますが、先生たちが基本知識を得るための資料として、幾つか挙げてみます。

1.    「水俣病・授業実践のために」(水俣芦北公害研究サークル)

2.    「知る水俣病」(朝日新聞社)

3.    「きずな・小学校高学年(この子とともに)」(熊本県人権教育研究会編)

4.    「きずな・中学校(話したいと思う様になりました)」(熊本県人権教育研究会編)

5.    「水俣学ブックレット・水俣を歩き、ミナマタに学ぶ」(熊本日日新聞社)

6.    「水俣学ブックレット・水俣病小史」(熊本日日新聞社)

7.    「水俣病3つの責任」(一般社団法人水俣病を語り継ぐ会)

8.    「終わらない闘い」(一般社団法人水俣病を語り継ぐ会)

9.    「水俣から・寄り添って語る」(水俣フォーラム編・岩波書店)

10.  「水俣へ・受け継いで語る」(水俣フォーラム編・岩波書店)

11.  8つのテーマで読む水俣病」(高峰武・弦書房)

    水俣病センター相思社(0966-63-5800)には、新刊の書籍を中心に、多くの水俣病関連図書が販売されています。HPhttp://www.soshisha.org/jp/)も充実しています。

 

⑪「自分を語る」場を設定している。水俣病を題材とした学習を通して、どのような自分を語る場の設定ができるか御助言をいただきたい。

 水俣病資料館の語り部講話の中心は「辛いことを乗り越え、前向きに生きる今がある」かと思います。そうした人々が「何があったから、乗り越えられたのか」を話し合い、子供たちの身の上と重ねて見てはいかがでしょうか?当たり前ですが、語り部の方たちもたった一人で乗り越えたのではなく、友人や家族、先生、支援者の支えがあり、書籍等を読むことで真実に触れ乗り越えてきています。私自身も「自分を語る」ことを求められますが、本当に信頼関係のある人々の前で話すことと、授業や講演で話す内容は異なります。嘘を話すわけではありませんが、自分の恥やマイナスを語ることが「誰かの役に立っている」と思えれば、それほど信頼関係がない場でも話せるような気もします。参考になれば幸いです。

 

■現在の水俣に関して

①現在の水俣病の方々の生活の様子について知りたい。

 これまでに水俣病と認定された患者さんは、熊本県、鹿児島県合わせて2283人(内死亡者1963人・2020.5現在)です。多くの方が亡くなり、生存者は300人程度です。またいわゆる「未認定患者」ではありますが医療費等が支給される「医療手帳」等を所持している方も多数います。

 現在も民事訴訟を続けておられる方も居られ、そうした方々にとって「水俣病」は、生活の中心になっていると思います。しかし一般的には「水俣病患者家族の高齢化」が進み、公的施設で介護を受ける方も多く居られます。日課の様な病院通いと孫やひ孫の世話など、普通の暮らしをしておられると思います。

 

■水俣の箱の活用

①水俣の箱の効果的な活用法や事前学習等の実践事例があれば知りたい。

 各地域で取り組んでいただいた例は、多々ある様ですが、実践例を把握するには至っていません。「『水俣の箱』を使った授業例を考えるワークショップ」の報告をお伝えします。参考になれば幸いです。

1.     子供たちに身につけさせたい力・・・。水俣に学ぶことを通じて自らの生活と重ね、差別や偏見を許さない態度をはぐくみ、実践mにつなぐ。正しい知識(情報)を得ることにより噂に惑わされることなく、自分の目で判断し行動することができる。仕切り網・・・メチル水銀に汚染された魚の移動を制限するためのもの。なぜ?チッソ工場からの排水によって水俣は魚が汚染された。住民に正しい情報が伝えられなかった。疑心暗鬼になった。家族でさえも偏見を持つようになる。吉永さんの話から・・・・噂に惑わされず、自分の目で確かめる。正しい情報をもとに行動する。

2.     「水俣の箱」を使って授業をどう組み立てるか・・・・。仕切り網を使って。まず見せる。何の網か考えさせる。仕切り網であることを伝える。なぜ、この網を海にしなければならなかったかを考える。その思いを考える。美しい海を取り戻したい・・・自分たちが生まれ育った海だから。差別もなくしたい・・・自分たちには何も悪いところはない。立ち上がり差別と戦う。おかしいことを「おかしい」と言う。自分たちの暮らしと重ねる・・・・決めつけ、差別はないか。決めつけ、差別された人(友達)の思いを知る。知った上で自分にできる事は何かを考える。返しの言葉へ。(このような指導を繰り返し行っていく)